4.爺ちゃんのこぼした話
爺ちゃんは酒飲みだった。
酒がゆういつの楽しみで、酒を飲みすぎて死んでしまった。
でもこの爺ちゃん、とっても人が良い。

ウチの母がお嫁に来た時、
「酒だけは好きなだけ飲ませてほしい、後は何も言わん」
と公言したとおりの人。
うちの嫁さんは日本一と言うほどかわいがっていたらしい。

私が生まれると目に入れても痛くないほどかわいがってくれた。
私が死んだら爺ちゃんの隣においてほしいほど感謝している。

そんな爺ちゃんは母の妹(私の叔母)も可愛がっていた。
そのころ叔母はまだ独身で長崎市内の実家に住んでいたのだが、
新婚さん(私の父と母)の邪魔にならないよう、
しょっちゅう泊まりに行っていたそう。
そこである日酒を飲みながら、ぽつんともらしたことがあったそうだ。

「あのころは、本当にかわいそかったー。」
戦時中の強制労働の話をしだしたのである。

着るものは上は裸で下だけ一枚の長時間の重労働。
食べ物も、ろくなものしか与えられず量も少ない。
アパートの下の方で日にも当たれず雑居生活。
時々人の目を盗んで、にぎりめしとか持っていってやったけど、
そう頻繁に自分とこの部下にだけ良くしてやるわけにはいかなかった。

朝鮮人を一番いじめていたのは実は同じ朝鮮人のリーダーだった。
日本人に気にいられようと、これでもかというくらいイジメていた。
それを知っていたのか、いないのか
対処できなかった日本人にも責任がある。

それから
爺ちゃんがそのことを口にすることは一切なくなった。
父も母も知らなかった話。