2.消えた記憶
20才の学生の頃、長崎の叔母から新聞の切抜きが寮に送られてきた。
「端島の事が載ってたので送りました」と手紙にかかれていた。

ワクワクしながら目を通していくうちにワナワナと手がふるえてきた。
それは、戦時中端島であった強制労働の記事だったのだ。
ちょうど高島が閉山した頃なのでそういう記事が組まれたのだろう。
実際に強制労働された方の生々しい話が書かれていた。

「あの平和な島でそんなことがあったなんて!」
しばらくボーゼンと突っ立っていた頭に、ふとよぎるものがあった。
そういえば、中学2年の社会の教科書に強制労働の事が載っていたような・・・?
習っているのは間違いない。なんで忘れてしまったのだろう。

そう、あの頃はただでさえ孤立していた自分なのに
炭鉱出身だということがバレたら…
更に差別や偏見でクラス中、いや、学年中から無視されてしまう。
さいわい転校して来たのは小一の頃。
みんな私が炭鉱の島から来た事なんて忘れてしまっている。

「黙っとこ」

以来、記憶の扉にぎっちりとカギをかけてしまっていたのだった。